キスの意味
しばらく、沈黙が続く。私は、ずっと前を見据えていた。何かを諦めたように、塚本さんが再び大きく息を吐く。塚本さんのそんな姿、今日は何回見ただろう・・・

「『彼氏のフリ』じゃなくて、本当の彼氏になってほしいって・・・」

「っ!・・・」

やっぱり・・・白石さんは塚本さんの事、本当に好きだったんだ・・・いつの間にか、沈んでいた涙が、また、浮上してくる。

「でも、すぐに断ったから」

「どうして?白石さんみたいに、きれいで、性格もいい人、断るなんて信じられない!」

「それは・・・」

気が付けば、会社の職員駐車場まで戻って来ていた。塚本さんは、静かに自分の専用スペースに車を止めた。

もう、10時半を過ぎている。駐車場に止まっている車は、私の車も含めて2~3台程だ。

私、何を言っているんだろう・・・『塚本さんの事が好き』その想いだけを伝えるはずだったのに・・・

車のエンジンを切る。とたんに、車内は静かになる。

塚本さんが、ゆっくりこちらを見る。私は俯いたまま、顔が上げられない。

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