キスの意味
さすがの川下部長も、恋する乙女の気持ちまでは、思い至らなかったようだ。

村瀬さんの両隣には、塚本さんと丸岡さんが寄り添い、宥めたり、励ましたりしている。

どんなに涙を流しても、村瀬さんの整えられた目元はきれいなままで、最近のメイク用品の実力に感心する。

村瀬さんは時折、塚本さんの事を、潤んだ瞳で見つめたり、腕にすがって、何かを訴えている。

『不機嫌オーラ』から『悲劇のヒロインオーラ』に変えたようだ。

村瀬さんの『女子力』もハンパない。

“塚本さんに、できるだけ近付かないようにしよう”なんて考えてたけど、余計な事だった。

こんな“チャンス”を、村瀬さんが逃すはずがない。

私は、何とも言えない居心地の悪さを感じながら、正座して、ひたすら生ビールを飲んでいる。

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