白と黒
『……っ離しなさい‼︎』
その何かが男の腕だと気づいて、離れるためにそう叫びながら身をひねる。
男に抱きしめられるなんて、事故であっても味わいたくなかったのに。
『……お前は、何にそこまで怖がってる』
私を抱きしめた男…朱里が、私を抱きしめたままそういう。
怖がるですって?
この私が⁇
『…ふざけた事言わないで』
荒上げそうになった声のトーンを抑え、力一杯朱里を押し返す。
そして、幹部室の方に向かって朱里を押し、呆然と眺めていた彼らを見て口角を上げる。
何に怖がってるかですって?
私は、何にも怖がってないわ。
ただ私の中にあるのは…
『私は、あなた達を信用しない』
これが、最後の忠告。
忠告をするくらいなんだから、私も幾分か甘いところがあるのかもしれない。
復讐したくない…だなんて。
彼らといたせいで、一瞬でもそう思ってしまった自分を心であざ笑う。