私とメガネくんの秘密のレッスン
side 白石 潤
家のプレートを見た瞬間、
嫌な予感がした。
"鈴村"。
このとき俺の嫌な予感バロメーターは90%。
そして…
「あらあら…
突然お呼びしてしまって
申し訳ございませんでした。」
"鈴村"さん宅の奥さんを見た瞬間、
俺の嫌な予感バロメーターは95%に到達。
どう見てもこの人は…
鈴村彩乃の母親だ。
瓜二つとはまさにこう言うことを言うのだろう。
「彩乃、
何してるの~?
先生来てるわよぉ?」
"鈴村"さん宅の奥さんが発した名前…
俺はそれを聞いて
嫌な予感バロメーターが頂点に達した。
あぁ…
この家は鈴村彩乃の住む所で…
俺が教えなきゃいけない生徒も
鈴村彩乃。
…最悪。
俺は馬鹿な女ほど、
嫌いだと言うのに…
そして馬鹿な女の兄貴はもっと馬鹿なようで
「野郎じゃねぇか!
絶対に駄目だ!!
今日は中止!!」
重度のシスコン野郎だったらしい。
気を利かせて普段兄貴が
言ってるだろうことを言ってみるけど
シスコンっつうものには
理解しかねる。
まぁ俺からしたらどうでもいいけど。
つか遅い。
俺の教えなきゃいけない生徒は
いつになったら来るんだ。
イライラしつつも
待っていると
「え………?」
奥から来た鈴村彩乃本人は、
俺を見るなりビックリした顔で
立ち尽くしている。
やべぇ…
バレたか?
そう思って先手をきるように、
自己紹介。
別人と理解したのか、
それ以上は何も聞いてこなかったから
好都合。
だけど……
部屋にはいってからも、
俺の顔をじっと見ているのがわかった。
きっと怪しんでいるのだろう?
だからこれまた2回目の先手。
すると焦ったのか…
「え!!
いえ、その……知り合いに
似ていたものですから……!」
…と馬鹿正直に口を漏らす。
おいおいおい。
それって俺のことか?
だったらメガネを外しただけの
メガネ損じゃねぇか…
そう思いながら聞いていると
出てくる俺の名前。
これはヤバイ。
間違いなくメガネ損だ。
すると彼女は笑顔で
そいつのことを語り始めた。
頭がいい。
運動ができる。
うんうん、
ここまではありがちな答えだ
………だけど、
そのあとに言った彼女の言葉には
絶句した。
「あと…
あっ…いつも本を読んでます!
それでこの前チラッと
見えてしまったんですけど…
彼、ファンタジーを読んでました!」
「………。」
ファンタジー?
あぁ…
見られていたのか。
「私てっきりもっと
お堅いのが好きなんだろうなって
勝手に思い込んでいたんですけど、
まさかの"蛙の王子さま"で!」
「………。」
ん?
これは馬鹿にされているのか?
間違いなく馬鹿にしてるよな?
お、何だかイライラしてきた。
「可愛いなぁと思いつつも、
やっぱり可笑しくて!
ギャップって言うか…」
「………。」
"可笑しい"?
「はっ…失礼ですよね…!
えっとそれから……」
ちょっと待て。
一体どこが可笑しいと言うんだ?
お堅いのが好み?
ファンタジーを読んでいた俺が変だと?
そんなのお前らが勝手気儘に
決め付けた俺のイメージだろ?
腹が立つ。
俺がファンタジー
読んでたらいけねぇのかよ!
しかも"蛙の王子さま"
馬鹿にすんな!