私とメガネくんの秘密のレッスン

………………………
…………………
……………



「…そういえば白石くんは
 午後あとなんの競技が残ってるの?」



「僕…ですか。
 あとはリレーだけです。」



「えぇぇ!
 クラス対抗リレーに
 選ばれてたんだ?!」



「…えぇ、まぁ。
 本当はすっごく
 出たくないんですけどね。」



「え、そうなの?」




うん、
確かに白石くんは心底嫌そうに
顔を歪めている。



「…だったら出たくないって
 言えばよかったのに…。」



きっと私と違って
みんな快く
受け入れてくれたんじゃ…

障害物リレーとは違って
クラス対抗リレーは
結構出たがる人居たんじゃないかな?

そう思って白石くんを見たけど



「いいえ、
 僕が嫌だと言っても
 それを断固として許さない
 万年馬鹿野郎が居ますから…」



「"万年馬鹿野郎"?」



もうこれまでかってぐらい
冷めた顔つきで遠くと見据える白石くん。

"断固として許さない?"

一体誰のことーーー…?



「…まぁ、
 その万年馬鹿野郎ともーー…」



「だぁれが
 "万年馬鹿野郎"だってぇ~?」



「………。」



「潤ちゃあ~ん
 親友に対してその言い草って
 どうなわけ~?」



「……ハァ。」




え…
親友?

私は白石くんの後ろに現れた人物に
急いで目を向ける。


すると




「あっは!
 ハロー彩乃ちゃん!」



「なっ、仲村くん?!」



しっ、親友って……




仲村くんだったのぉ?!



「全く…なにさ、なにさ!
 俺は潤が大好きだから
 思い出作りに
 一緒に走りたいのにさ~」



「迷惑だ。」



「でたでた!
 でも俺は潤がツンデレだって
 理解してるからね!」



「うるさい、帰れ。」



まさか親友が仲村くんだったとは…
思わずフリーズしちゃったじゃん。

だって仲村くんは白石くんと違って
明るいし、クラスではリーダー的存在。
なにか決めごとするときだって
仲村くんが意見を言えばすんなり通るし…

なによりこんなヘラヘラしてる人が
白石くんの親友とは信じがたい事実だ。

うん、
正直認めたくないほど
彼は適当人生まっしぐら…

だけどそれさえも覆すのが…



「抱きつくな、気持ち悪い。」



「もーう、
 潤の照れ屋さん!」



白石くんがありのままで
対話しているところだ。



「…嘘。」



「え、
 なにが嘘なのさ~。


 …もしかして俺が親友だった事実が
 信じられないんでしょ~?」



「うん…」



「あはは!
 彩乃ちゃんったら素直~!」



そう言って私の頭をナデナデナデナデ
撫で回す。


ちょ、
ちょっとー!
ボサボサになる!



「やめてよっ!
 セットするの
 大変なんだからぁ!」



「アハハハ。
 だよねぇ…
 雨の日なんてクルックルだもんねぇ」



「知ってるなら
 なおのことやめて!」



うわーん!
仲村くんってこんな人だったのか…
せっかく綺麗にセット出来たのに
一瞬にして癖毛が現れてしまった。

うん、最悪。

そして癖毛が出てきたところで
やっと仲村くんから解放された。

うん、たち悪い。



「…っもう、
 仲村くんって
 女の子の努力を無にするよね。」



「アハハハ。
 そんなこと言うの
 彩乃ちゃんだけだよ~。

 でも
 それはそれで可愛いよ~。」



「んなっ!」




ほ、本当にヘラヘラ人間なだけあって
言うことも適当だなぁ…

まぁこういう人の言うことは
ほとんどがホラだってお兄ちゃんも
言ってるほどだ。

私は信じない。


そう決心して白石くんの方を見ると…




「?!」



「………。」



何故か不機嫌。



「?」



「おい、隼人。」



しかもその不機嫌の矛先は
仲村くんに向けられている。

だけどそれでも
彼はヘラヘラ笑ってるだけで



「なぁに怒ってるの~?
 導火線短いんだから!」



「てめぇ
 ぶっ飛ばすぞ。」




結構な強者かもしれない…
そう思った。

私だったらフリーズしちゃうレベルだ…
だって普段は表情の起伏が
ほとんどない白石くんだと言うのに

今は獲物を睨み付ける蛇のように
鋭くて正直恐いの一言。



「…大丈夫か?」



「えっ…あっ…!
 だっ、大丈夫です!」



だけど私に向けられた表情は
さっきまでと大違い。
穏やかで少し困ったように笑顔を作った。

それだけのことなのにーーー…



ドクン…



「!」



やっぱり胸は高鳴って、
切なさも感じる。


な、
なんなの一体!



「…鈴村さん?」



「あっ、やっ、えっと…!」



「…彩乃ちゃん。
 顔真っ赤だけど?」



「そっ、
 そんなことないよ!
 ほら、
 今日暑いしこもってるし
 蒸しちゃったのかなぁ~?

 アハハハハハ…」



とりあえず頭に浮かんだことを
早口でいい終える。

やっぱり私って
追い詰められると早口になるみたい。
…ってそうじゃなくて!


ここはさっさと退散しよう。


だけどーーー…



「なに、
 またドキドキしてんの?」



目の前には白石くんの顔。
背の高い彼は腰を屈めて
小さな私の目線に合わせた。



「~っ!」



「…本当にお前ヤバすぎ。」



「ヤッ…」



ヤバイってどう言うことですか!
不審者ってことですか!



「勘違いすんなよ?」



そう言うと白石くんは私の耳元に
顔を近づけてーーー…



「ヤバイ可愛すぎって意味…」



「ーーーー!」



甘く囁いた。

その途端に
からだの芯は一気に熱に溺れて



「むっ…」



「"む"?」



もう視界も大理石のように
マーブル柄にうごめいていった。


そして私の心臓もーーー…



「もっ…無理ーーーー!」



限界を迎え、
白石くんを置いて(仲村くんのことも)

私は教室に向かったのであった。








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