君がいるから~雪の降る夜~
すると、笑い声が届いたのだろうか? 急に足を止めた彼女が、物凄い顔で振り向いた。

「笑うな!」

あぁぁ相当キレてる……!

白いふわふわのファーの耳当てに、キャメルのAラインコート、雪の上から顔を出しているのは、コートと揃いのキャメルのロングブーツ。
見た目は可愛いのに、何者も寄せ付けないその刺々しい雰囲気は、まるで戦に挑む女戦士。

いまの彼女なら国ひとつ簡単に落としかねない気迫が……。

弱気になるな、俺!
尻込みしてしまいそうになる自分を叱りつける。

勇気を奮い起こしていると、強烈な睨みを効かせていた彼女が、再び足早に歩き始めた。俺は慌てて追いかける。
もしもの攻撃にそなえ、一定の距離を置いて。

「………」

このままては、久しぶりのデートが最悪のまま終わってしまう。

天を仰ぐように上空を見上げると、空からはふわふわと綿毛なような雪が舞い始めた。
せっかく降ったたくさんの雪。
雪の中のデートなんてそうあるもんじゃない。ロマンチックとまではいかなくても、特別なものにしたかった。

何をいっても噛みつかれるなら、一か八かだ。
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