風がさらった恋心。
◇側にいてくれる人
「葵、こっちこっち!」
バス停につくとすぐにやって来たバスに乗り込む。
礼央はどこだろうって探す前に、私を呼ぶ声がした。
思い切り手を振る度に、ふわふわと柔らかな黒髪が揺れる。
唇が弧を描くと、右頬にだけ笑窪が出来る、私の幼なじみ。
「お疲れ、礼央」
「葵もお疲れ〜」
いつものように隣の席に座ると、礼央はふにゃりと笑った。
背も伸びたし、声も低くなったけど、その顔だけは昔から変わらなない。
……あと、変わらないものって何があるんだろう。
昔は心配性でも、過保護でもなかった。
進学校に通ってるけど、勉強だってそんな得意なタイプじゃなかったはず。
どっちかって言うと運動の方が好きで、いつも真っ黒に日焼けしていた。それなのに、今はインドア派な私と変わらないほど色白だ。
もしかしたら、私がそばにいるせいで、礼央から沢山のものを奪って、変えてしまってるのかもしれない。