風がさらった恋心。
本当はサッカーの強い高校に行って、サッカーを続けたかったのかもしれない。
授業が終わっても私と一緒に帰らずに、たまには友達と寄り道したいかもしれない。
だけど、私のせいで、私がいるから、そんな些細なことすら叶わない。
私は自分の世界を保つために、礼央の人生を犠牲にしてる。
「……葵?」
自分でもそんなこと、分かってるよ。
痛いくらいに分かってる。
こんなこと続けたって誰も幸せになれないことだって知ってるよ。
それでも私はこれ以外の生き方が分かんないんだよ。
「……俺がおるよ。葵が本当に大丈夫になるまで、ずっと側におってやるけ」
そっと私の左手に重ねられた、礼央の右手。
昔から礼央の手は冷たい。私と一緒で氷みたいに冷たい。
ーー私たちは、幼なじみ。
今も昔も、これからもずっと、幼なじみ。
それ以上を望む彼の気持ちに気付いているけど、私はきっと一生、応えられない。
だから気付かないふりをするの。
だって今の私には、この手を振り払う勇気すらない。