風がさらった恋心。




そのまま会話もなく30分ほどバスに揺られた。

降りてもまだ、ぎゅっと力いっぱい、まるで存在そのものを確かめるように握られた手を、振り払うことも、握り返すことも出来ない。


やがて辿り着いた青い屋根の一軒家。

表札には " 相澤 " と書かれた、礼央の家。


そして今の私にとっての帰る家でもある。


礼央がドアを開けると、ただいまと言うよりも先に奥からドタバタとこちらに駆け寄る足音が聞こえた。




「葵ちゃんおかえりなさい」

「ただいま、美幸ちゃん」

「……いやいや、俺は?何で葵にしか言わんの?」




にこやかに私を出迎えてくれたのは、高校生の息子がいるとは思えないほど若く見える、礼央のお母さん。

私は昔から美幸ちゃんと呼んでいる。





「え、どちら様ですか?」

「息子を忘れたん?ついに母さんボケ始めたんやない?」




お互いに微笑みながらポンポンと言い合う姿は本当に仲が良いんだなって思う。

それが少しだけ羨ましくて、私の胸はチクチクと痛む。





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