風がさらった恋心。
ただいまって言えば、おかえりって迎えてくれる人がいる。
それだけのことがどれだけ幸せなのか、今になってようやく分かったよ。
ーー『おかえり、葵』
ーー『学校はどうやった?楽しかった?』
もっと大事にすれば良かった。
一瞬一瞬を大切にすれば良かった。
……そしたら、失わずにすんだかもしれないのに。
今まで起きた全てのことを覆すことは出来なくても、ここまで最悪な展開を迎えることは、きっとなかったのに。
「なら二人とも晩ご飯まで課題でもしてなさい」
「はーい」
靴を脱いで、いつものように階段を上って礼央の部屋に向かう。
家のドアを開ける直前に離した、手。
私の少し前を歩く礼央の背中を見つめる。
ごめんね、勝手で。
ごめんね、縛り付けて。
……それなのに、ごめんね。
「なあ、葵、課題何の教科が出たー?」
きっと礼央を好きになれたら、楽になると思うよ。
それでも私は、今側にいてくれる存在を、恋人なんてあやふやで脆い存在にしたくない。