風がさらった恋心。
「えっ、あ、千葉さん…!?」
階段を下りていると、二階の踊り場で一岡くんと鉢合わせた。
背の低い私にとってはずっと高いところにある彼の顔に目を向ければ、凄く驚いた顔をしていた。
「……これで合ってますか?」
初めて話しかけるから、何だか緊張する。
さっきの一岡くんが敬語だったせいか、自分までそれが移る。
ぎゅっと、差し出したタオルを持つ手に力が入ったのが自分でも分かった。
流れる沈黙が、何だか私を不安にさせる。
……もしかして、ずっと自分を見てた人間が、わざわざタオルを持ってきたことに引いてる?
だったら、誤解を解かなきゃ。
でも、どうやって?見てたのは事実でしょ?
貴方は好みじゃありません。好きでも何でもないので安心してくださいって言うの?何も言われてないのに?
そうやって一人ぐるぐる頭の中で考える。
「千葉さんってさ、いつも放課後、教室におる……よね?」
口を開いた一岡くんが、静かに私に問いかけた。
やっぱり気付かれてたんだ。恥ずかしい、最悪だ。鈍すぎるでしょ、私。
……あと、敬語じゃ、なくなった。