眠れないのは君のせい
Take three
久しぶりの人口密度の多いビル街からの、緑に囲まれた景色は、紅葉の時期もあってか、いい気分だ。晴れ晴れとした天気、空は何処までも蒼く、少し開けた車窓から入ってくる空気もとてもおいしく感じた。
満月は、何処へ行くにもノートPCを欠かさなかった。いつ何時でも頭にイメージが浮かんできたら直に、記憶を書き留めておける様にと持ち歩いている。
今、正にその時。後部座席でパタパタと指が文字盤の上で言葉を奏でている。
弟の陽太の運転は上手い。クネクネトと曲がったカーブもスイスイと進んで行く。文字を打っている姿勢も苦にはならなかった。満月はいつも後部座席を陣取った。視野が少しずつ狭くなってきてからは、助手席よりも、多少広い後部席の空間が自由に使えて良いのだった。
「ねぇ満月、車の中でその姿勢は、瞳には良くないと思うよ。今どきはさ、携帯で言葉を録音するってやり方もあるわけだしさ」
「何を言っているのよ、ひなちゃん。作家はね、文字を書いて?あ、今は叩いて、何ぼ?の世界なの。音楽の世界とはちょっとちがうのよ。それに」
と言いかけたが、陽太がすぐさま突っ込んできた。
「はいはい、また始まった。音楽の世界も創作という意味では一緒だと思いますが。てか、ただ俺はさ、満月の視力が落ちていくのを心配しているわけよ。それじゃなくたって満月の瞳はさ」
陽太は興奮して、掛けていたサングラスを少しずらして満月を見た。
薄グレイの陽太の瞳は、ルームミラーからもはっきりと解った。
「わかってる。本当、ひなちゃんは心配性なんだから」
「満月が、危なっかしいから見ていられないんじゃん」
「そう言えば、両親がアメリカで住むって言った時も、私は、ひとりでも生活できるから残るって言ったら、ひなちゃん、俺も残って満月を守るからなんて、言ったよね」
「あ、それねぇ、大学も決まってたし、一応彼女もいて、やりたいこともあったし、満月を守るって言っちゃえば、父さんも、母さんも、必ずOKするに決まってるもん。ただそれだけの理由だったんだけどね」
「あれから9年、ずっと、面倒お掛けしております」
運転している陽太に向かって頭を下げた。
「満月はさ、あの頃から相変わらず妄想を書いていたよね、大学の時に、シナリオ大賞を取って、卒業してからすぐにドラマや映画のシナリオを手掛けてさぁ。いい作品をたくさん書いていたって言うのに….」
「のに?のに?のにって、何よ」
「いや別に、今のエロ作家がいけないって言う訳じゃないんだけど」
「あ、エロって言った、エロ作家って言ったね」
「夢子さんは、またシナリオを書けって言っているんでしょ?監督の旦那さんも、また満月と一緒に仕事がしたいって言っているわけだし。そのために今日も映画の撮影現場に呼んでくれたんじゃないの?」
「エロの世界だって立派な芸術ですよ」
満月は、唇をとがらせて陽太を見た。
「何、怖がってるの?何、不安がってるの?まだ引きずってるんだ?」
「引きずるって何をよ」
「昔の事」
「あ………もう、6年も前の事でしょ」
満月のパタパタという手の動きが止まった。
下にずれたメガネを指で押し上げると紅葉で色づく景色に瞳を向けた。
「満月、ごめん、いやな事を思い出させちゃって」
「や、やだなぁ、もう。誰よ~昔の話なんかするの」
無理にはしゃいで見せる満月。
「ひなちゃんのせいだぁ~」
「俺?違うっしょ、始めたのは満月だろ?」
その満月の気持ちを察する陽太。
「連想させたのは、ひなちゃんよ」
「え~やっぱ俺?」
「後で驕りね」
「またかよ」
ミラーに向かって舌を出す満月。呆れる陽太。
満月は、何処へ行くにもノートPCを欠かさなかった。いつ何時でも頭にイメージが浮かんできたら直に、記憶を書き留めておける様にと持ち歩いている。
今、正にその時。後部座席でパタパタと指が文字盤の上で言葉を奏でている。
弟の陽太の運転は上手い。クネクネトと曲がったカーブもスイスイと進んで行く。文字を打っている姿勢も苦にはならなかった。満月はいつも後部座席を陣取った。視野が少しずつ狭くなってきてからは、助手席よりも、多少広い後部席の空間が自由に使えて良いのだった。
「ねぇ満月、車の中でその姿勢は、瞳には良くないと思うよ。今どきはさ、携帯で言葉を録音するってやり方もあるわけだしさ」
「何を言っているのよ、ひなちゃん。作家はね、文字を書いて?あ、今は叩いて、何ぼ?の世界なの。音楽の世界とはちょっとちがうのよ。それに」
と言いかけたが、陽太がすぐさま突っ込んできた。
「はいはい、また始まった。音楽の世界も創作という意味では一緒だと思いますが。てか、ただ俺はさ、満月の視力が落ちていくのを心配しているわけよ。それじゃなくたって満月の瞳はさ」
陽太は興奮して、掛けていたサングラスを少しずらして満月を見た。
薄グレイの陽太の瞳は、ルームミラーからもはっきりと解った。
「わかってる。本当、ひなちゃんは心配性なんだから」
「満月が、危なっかしいから見ていられないんじゃん」
「そう言えば、両親がアメリカで住むって言った時も、私は、ひとりでも生活できるから残るって言ったら、ひなちゃん、俺も残って満月を守るからなんて、言ったよね」
「あ、それねぇ、大学も決まってたし、一応彼女もいて、やりたいこともあったし、満月を守るって言っちゃえば、父さんも、母さんも、必ずOKするに決まってるもん。ただそれだけの理由だったんだけどね」
「あれから9年、ずっと、面倒お掛けしております」
運転している陽太に向かって頭を下げた。
「満月はさ、あの頃から相変わらず妄想を書いていたよね、大学の時に、シナリオ大賞を取って、卒業してからすぐにドラマや映画のシナリオを手掛けてさぁ。いい作品をたくさん書いていたって言うのに….」
「のに?のに?のにって、何よ」
「いや別に、今のエロ作家がいけないって言う訳じゃないんだけど」
「あ、エロって言った、エロ作家って言ったね」
「夢子さんは、またシナリオを書けって言っているんでしょ?監督の旦那さんも、また満月と一緒に仕事がしたいって言っているわけだし。そのために今日も映画の撮影現場に呼んでくれたんじゃないの?」
「エロの世界だって立派な芸術ですよ」
満月は、唇をとがらせて陽太を見た。
「何、怖がってるの?何、不安がってるの?まだ引きずってるんだ?」
「引きずるって何をよ」
「昔の事」
「あ………もう、6年も前の事でしょ」
満月のパタパタという手の動きが止まった。
下にずれたメガネを指で押し上げると紅葉で色づく景色に瞳を向けた。
「満月、ごめん、いやな事を思い出させちゃって」
「や、やだなぁ、もう。誰よ~昔の話なんかするの」
無理にはしゃいで見せる満月。
「ひなちゃんのせいだぁ~」
「俺?違うっしょ、始めたのは満月だろ?」
その満月の気持ちを察する陽太。
「連想させたのは、ひなちゃんよ」
「え~やっぱ俺?」
「後で驕りね」
「またかよ」
ミラーに向かって舌を出す満月。呆れる陽太。