バトンタッチ~世界で一番愛しい人~
我が家

それはたしか、暑い夏の午後。

「はるちゃん、お客さんだよ。」

我が家を訪ねてきたのは、ペラペラのTシャツに薄いベージュのチノパンを履いた、何ともぱっとしない中年のおじさんだった。

「こんにちは。」

その人は、私の目線まで腰を下ろすと少しだけ微笑んだ。

物心着いた頃から母と二人暮らしだった私は男の人が苦手で、思わずお母さんの後ろに隠れたのを覚えている。

「大丈夫。怖くないよ?この人ね、恵吾さんって言うの。ママのお友だち。」

お母さんは彼を、お友だちと言った。その言葉に、私は少しだけ安心した。

「びっくりさせちゃってごめんね。アイス食べる?」

そのおじさん、恵吾さんは私の好きな苺味のアイスを差し出すとまたニコッとした。

「…ありがと。」

私はアイスを受け取ると、初めて彼に言葉を発した。

「どういたしまして。」

恵吾さんは私の頭にぽんっと手を乗せた。

大きくてがっちりとした、お母さんとは違う手だった。

それから三人でアイスを食べて、パズルをしたり、お絵かきをしたり。夕飯は、恵吾さんが作ったお好み焼きを食べて、そのあとは外で花火をした。

いつもはお母さんと二人で

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