君が好きだよ
彼女が洗い物の手を止めた。少し驚いたような顔でこちらを見る。
「その……ほら、二十五年だし……」
俺の声は語尾に行くに連れて小さくなる。その様子を見て彼女はくすっと笑った。
「結婚二十五周年、銀婚式。覚えていてくれるなんて思わなかった」
忘れるわけ無いだろう。
そう思ったけれど、それは口には出来なかった。
来年五十歳になるというのに、俺は相変わらず口下手だ。照れ隠しの眉間の皺は長年の内にしっかり刻み込まれて、性格以上に顔は強面になっている。
それでも喜んでもらえた事は素直に嬉しい。
「あと、今年度いっぱいで本社に帰れるらしい」
二年間の単身赴任も終わりが見えてきた。
転勤が決まった当時、持ち家があったし子供の進学時期と被っていたので妻には着いて来なくていいと言った。けれど一ヶ月に二・三回は必ず来て身の回りの世話をしてくれる。それが毎回楽しみだった。