おいしいチェリーのいただきかた☆
 
「それにしてもパックで食べるほどサクランボ好きなんだね」
 
「……コホッ、ん、ん、あ~~。おっけ。うん、大好きだよ~。昔から店の人がよくくれたから。春の一番の楽しみだよ~ってもう夏だけど」
 
「そっか」とコーヒーを口に含む小宮。
 
カップに目を落とす。静かに数口飲んだ後、ややあって顔を上げた。
 
 
「キャバクラって、最初聞いた時は驚いたけど。ここの人達はみんな自分の仕事に誇りを持ってていい人達だね」
 
 
その言葉にまだ少し引き摺ってた胸の痛みが和らいだ。
 
ママの店の人を褒められたのは初めてかも。
 
「うん、みんないい人達だよ。明るくて面白くて、人に接する仕事を心から楽しんでる。あたしも大好きなんだ、この店」
 
心の奥がほんわかしてきて自然と口元が綻んだ。
 
 
「比奈さんは……今はキッチンのお手伝いしてるけど、高校卒業したら接客の方で働くの?」
 
「うん、あたしはそのつもり。小学生の時からずっとこの店を見てたし。仕事の内容もよく分かってる。でもママは渋ってるんだよね~。キャバ嬢になる前に経験するべきことが沢山あるでしょ、ってさ~」
 
「そうなんだ……」
 
またコーヒーに視線を落とす小宮からあたしも視線を外し、見慣れた休憩室の白い壁に目をやった。
 
 
経験すべきことってなんだろう……。
 
 
 
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