おいしいチェリーのいただきかた☆
 
「~~っ、ばかっ。変なこと、言わないでよ小宮っ。~~っ、お、お化粧、くずれちゃうじゃんっ」
 
 
言いたかった言葉。でも絶対言えない言葉。
 
笑顔の下で、呑みこんで。呑みこんで。
 
心の奥底にしまいこんだ、子供のあたしの言葉。
 
そっと抱き寄せる小宮の胸に包まれて思い出した。
 
「化粧なんてしなくても比奈さんは十分可愛いんだから、取っちゃえばいいんだよ。たまには思いっきり泣くのも美容にいいよ」
 
 
バカ。チェリーのくせに。
 
歯が浮きそうなセリフ、さらっと言うんだ。この天然。
 
 
あたし、泣いてる自分なんて、好きじゃないんだから。
 
つまんないコトでくよくようじうじしたくないの。
 
楽しいことだけ考えて笑っていたいの。
 
 
なのに小宮は、簡単にあたしを泣かせてくれちゃう。
 
 
「ちょ、ちょっとだけ、なんだからっ。っ、今日は、涙腺、おかしいだけ、なんだからっ」
 
 
それはきっと、小宮の胸があったかいからだ。
 
あんまりあったかくて気持ちいいから、ふっと気が緩んじゃったんだ、きっと。
 
今まで感じたことのないあったかさ――ポカポカ幸せな気持ちにくるまれてる。
 
その中に、ほのかな甘酸っぱさがあって――
 
なんだろうこれ。よく分からないけどずっとこうしていたい。
 
 
深く考えるのはやめにして、心地良い小宮の鼓動を聞いていた。
 
肩に置かれた手は、いつのまにか背中にまわってて。優しくあたしを抱き寄せてくる。
 
 
気持ちいいな。ただ抱き締められてるだけなのに。気持ちいい――
 
 
 
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