おいしいチェリーのいただきかた☆
 
「あらぁ~~。ごめんなさいねぇ。ちょうど水撒きしてたのよぉ~~」
 
 
付き合いの長いパン屋のおばちゃんが、バケツを手にすまなさそうに謝った。
 
「あ、いえ、気にしないでください」
 
人の好い小宮は笑顔で許す。何度も頭を下げるおばちゃんに「いいんですよ」と逆に恐縮しながら歩を進める。
 
その後ろをついていくあたしは通り過ぎ際、おばちゃんにグッジョブのサインを送った。
 
 
『いいのよ、比奈ちゃん。比奈ちゃんにはいつもパンを買ってもらってるからね』
 
 
そう、目で語るおばちゃんの親指サインは『グッドラック!』を示していた。
 
 
 
ありがとうおばちゃん。明日は特製メロンパン、10個買わせてもらうからね!
  
 
 
意気揚々と小宮の後を追いかけ、マンションの前に辿り着く。
 
「じゃあ比奈さん、ここで――」
 
振り返って微笑む小宮の両手をぎゅっと掴んで、真正面から顔を見上げた。
 
 
「小宮、うちでちょっと服を乾かしてから帰ったら? そのままじゃ風邪ひいちゃうよ?」
 
 
心配そうな顔を作って言う。
 
「このくらい平気だよ。多少雑巾臭いけど……お掃除に使った水だったのかなぁ」
 
案の定遠慮する小宮。濡れたシャツの袖をクンクン嗅いで苦笑する。
 
「そんなんで電車に乗ったら他の人にも迷惑だよ。着替え貸してあげる」
 
「えっ……。比奈さんち、男物の服あるの?」
 
「うん、制服の予備とかね。ブラウスくらいならあるよ」
 
安心させるよう柔らかく微笑むと、すっかり警戒心の解けてた小宮はちょっと考える仕草をしてから、
 
「じゃあ、貸してもらおうかな」
 
と承諾してくれたのだ!
 
 
お一人様ごあんな~~~~い!!
 
 
 
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