課長、ちゃんとしてください。
*
「あべちゃ〜ん!!」
新幹線の改札が見えてきたところで、人混みをつきぬける能天気な声が背後から聞こえてきた。
以前だったら、呆れ顔で振り返り、「周りに迷惑だからやめてください」と言っていただろうけど。
今のあたしは、なぜかどきりとして、すぐには振り向けなかった。
とりあえず、聞こえないふり………
「あっべっちゃ〜ん、こっちこっち〜」
課長には、そんな小細工は通用しなかった。
あたしは足を止め、ゆっくりと後ろを向いた。
「おっはよ〜、あべちゃ〜ん」
「………おはようございます」
思った以上に小さい声になってしまって、しまった、と思ったけど、課長は気にする様子もなくあたしの隣に並んだ。