kiss of lilyー先生との甘い関係ー
「ところで、将棋やチェス盤のマス目はいくつあるか分かるか?」

 いきなり話しがボードゲームに移ったものの、なにか関連があるのだと信じて頭を切り替えた。

「将棋はわからないけど…チェスなら駒がルーク・ナイト・ビショップが2体ずつにキングとクイーンだから横は8マス…そして盤は正方形だから、64マスじゃない?」

「その通り。だから64×75と聞いて僕がまっさきに思い浮かべるのは、100枚つみ重なったチェス盤の、1/4欠けている姿なんだ」

 言い終えると彼は立ち上がって、コーヒーのお代わりをとりに行った。自分の頭脳の種明かし–––”こんなに単純に考えているのだから天才ではない”と言うように。

「同じようにしてだいたいの数字は、具体的なものに置き換えて考える。15ならビリヤードの球、52ならトランプのように。素数が多ければ、分解しやすいだけあって応用もしやすい」

 なんとなくだけど彼の脳の構造はわかってきた。頭の中で電卓が働いているというよりは、数字が遊んでいるように色々なものに置き換わるのだろう(種明かしされたところで、彼に天賦の才能があることは否定されないけれど)。

 彼の人物像がわかり始めると同時に、小さな疑問が解消した。その疑問は水樹先生が優しい人であること。

 水樹先生は論理的な言動から左脳ばかり使っていそうなのに、すごく感情を大事にするから疑問に思っていた。だけど、蓋を開けてみたら水樹先生はとても右脳を使っていたのだ。日頃から想像力を駆使していた。

 だから彼は、冷たい雰囲気がないのではないか。

 もちろん科学的な裏付けがある推論ではないけれど、わたしは妙に自説に自信があった。
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