kiss of lilyー先生との甘い関係ー

「ずるいじゃないか、いつものところに座っていないなんて」

 テストのあとに研究室に顔を出すと、先生はパソコンの画面から目を上げずにそう言った。

「わたしが来た時にはいつもの席が埋まってたんだもの。ほら、テストのときは早めにくる生徒が多いから」

 わたしは弁明した。

「だからといってもっと近くに空席はあったろう。わざわざドア側の最前列に来るのは、悪意を感じる」

 先生はむすっとしている。もちろん本気で怒っているわけじゃなく、拗ねているだけだ。

「ふふふ、ごめんなさい。クッキー焼いて来たからこれで許して?」

 わたしは簡単にラッピングを施したそれを手渡した。先生はちょっと驚いて手に乗ったものに目を落とした。

「きみは…なんというか仕事ができそうなタイプの女性なのに、家庭的なこともできるんだな」

「なんだかんだで一人暮らしも長いですから」

「美味しいし」

「ポイント上がりました?」

「なんのポイントだ?」

 先生は受け取ってすぐつまみ食いをしたあと、わたしの言っている意味がわからずに首を傾げた。子供みたいに口元に食べこぼしをつけているから取ってあげた。もう機嫌は直っているみたいだ。
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