kiss of lilyー先生との甘い関係ー
「神田くん、ユリちゃん、これ」

 通路側から声をかけられて振り向くと、ゼミ生の一人が缶ジュースを差し出してくれていた。

「ありがとう」

 受け取ると、彼女は通路を隔てたひとつ後ろの席に戻って行った。4人でトランプをするために180度回転させた席。気を利かせてわたしたちの分も買ってきてくれたのだろう。

 そういえば彼女は夏学期始めのクラスで、わたしがプログラミングの授業を取ったと知った時に”水樹先生”に反応してたっけ。

 なんだかおかしかった。

 だってあのときはわたしが、教授まで恋愛対象に考える彼女に感心してたのに。すっかり立場が逆転してしまったから。彼女の頭に水樹先生のことはもうからきしなくなっていて、わたしは彼のことばかり考えている。

–––愛着心とトキメキとが付き纏っては慣れないこの見知らぬ感情を、恋心という甘酸っぱい名前で表そうかわたしは迷う–––

 見知らぬ感情、なんて言ったらさすがにわたしの元カレたちに怒られるかしら。

 ちなみに自分が在学生でありながら、教授職の水樹先生を想っていることに頭を悩ませることは、まったくなかった。最低限困ったことに巻き込まれないだけの注意を払っておけばいいと簡単に割り切れた。


・・・
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