kiss of lilyー先生との甘い関係ー
「ねーきみ、一人で来たの?」

 二年生くらいの、学校にちょっと慣れてきた風の男の子二人組に声をかけられた。

「友だちと…」

 みんなどっか行っちゃったけど。

「たこ焼き食べない?買ってくるよ」

 心のなかでため息をついた。

 今年から模擬店の学校からの支給額が減ったこと知ってるの。飲食店が頭使わずに費用削減したらどうなるかわかる?材料費を削るに決まってるわ。たこ焼きとか焼きそばっていうメニューはもう決定事項なんだから、それに対応するには油や小麦粉の質自体を落とすしかない。

 安い油は水素添加で二重結合を開いて飽和して脳に悪い。油分は大切よ。でも摂取するならオリーブオイルかグレープシードオイル辺りで、間違っても学園祭のたこ焼きからは摂りたくない。

 なーんてことを言うわけはなく、

「まだお腹空いてないから…」

 それとなく遠慮していたら、

「石村くんっ」

 なじみのある声の持ち主に名前を呼ばれた。

 振り向くと水樹先生が駆け足でこちらに向かっていた。白衣姿がよく似合う…って白衣?しかもなんでここに?

「来てくれないか、”リリー”が完成したんだ」

「え? あ、はい、」

 丁寧な頼み方のわりには強制連行。”リリーってなんのこと?”なんて聞ける暇もなく、手首を掴まれて出口に進んでいく。

 この場に未練は全くないし構わないけれど。声をかけてきた男の子たちは唖然としているのに先生は少しも断りを入れないから。だから去り際にまたねと手を振っておいた。
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