kiss of lilyー先生との甘い関係ー
「でも先生はモテたでしょ」

 わたしは”店主はモテなかっただろうけど”という風に話しをはじめてしまった。言ってからはっとして店主の方を確認した。鼻歌まじりに焼き鳥をひっくり返している。良かった、聞えていないみたい。

「いや、そんな記憶はないぞ」

 先生は黒霧島を一口飲んでそう言った。

 わたしは夏学期の授業を思い出した。彼に自覚がない可能性は大いにある。はっきりと好きだと言われないと気が付かないかなそうだ(さすがにわたしからの好意は伝わっているだろうけど)。

「女性から共感を得られた覚えはあまりない。一ヶ月かけて作ったプレゼントを、意味が分からないと言われて突き返されてこともある」

「え、なにを作ったの?」

「三次元コンピューターグラフィックス」

「…」

 うーん、それは確かに難易度が高いわ。わたしは欲しいけど。

「女性には何をプレゼントするのが正解なんだか…きみは何をもらいたい?」

「わたしはCGを貰ったらかなり嬉しいけど…そうね、一般的にはペンダントとか?」

 先生はふーんと言った。あまり興味がなさそうだ。

「まぁとにかく僕は”草食系男子”なんて言葉がないときからそれだったし、相手が女性でなくても他人といるより一人でいる方を好むタイプだから」

 そう言って自分の”モテなささ”を結論付けた。現実と乖離がありそうな結論を。だけど最後の一文はわたしも理解できた。人が嫌いなわけじゃないんだけれど、集団行動を好まない。一人が好きな気持ちはよくわかる。
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