先生、近づいても、いいですか。
ひと気のない、静まり返った駅の階段。




ゆっくりと登る二つの足音が、かん、かん、と鳴り響いていた。





階段の一番上までたどり着いたとき、ポケットの中で携帯がぶるぶると震えた。





俺は立ち止まり、ポケットに手を突っ込んだ。




春川が不思議そうに振り向いた気配がする。





俺は何も言わずに携帯を取り出し、画面を確認した。





そのまま、ポケットに戻す。




周りが静かなので、携帯がまだポケットの中で震えている音が微かに聞こえた。






「………先生」






春川が囁くように声を上げる。






「お電話、ですよね?


私、黙っているので、とっても大丈夫ですよ」






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