先生、近づいても、いいですか。
どうやら春川は、俺が春川に気を使って電話に出なかったと思ったらしい。




俺は小さく笑って首を振り、「いや、いいんだ」と言った。







「気にするな。


春川がいてもいなくても、出ない電話なんだ」






「え………迷惑電話ですか?」






「いや………」






「………じゃあ、どこから?」






春川がじっと俺を見つめる。




その目があまりにまっすぐで、あまりに澄んでいるので、俺は嘘がつけなかった。






「………実家、からだよ」






春川がゆっくりと瞬きをした。






「………いいんですか? 出なくて……」






「いや、あの……うん、実家からの電話はどうも長くなっちゃうから、いつも家に帰り着いてから掛け直すんだ。


電車だと話せないし………」






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