先生、近づいても、いいですか。
春川はぺこりと頭を下げて、「失礼します」と礼儀正しく囁き、自分の教室へと戻っていった。




その華奢で小さな背中を見送りながら、俺はため息が洩れるのをこらえきれなかった。





そうだ。



いくら俺が春川と接触しないように気を配ったところで、



完全に顔を合わせないなんて、どだい無理な話だ。




春川は同じ学校の中にいて、俺は春川の教科担任をしていて、春川は俺の教科の課題係をしていて。




どうしようもないくらい縁がある。





俺はもう一度ため息を吐き出して、職員室に戻った。




次の授業の準備をしながら、考える。




春川と会わないようにするのも、春川と口をきかないようにするのも、どうしたって実現不可能な試みだ。




ということはーーー俺が自分の気持ちをコントロールするしかない。





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