先生、近づいても、いいですか。
『………冗談でこんなこと言うか』






父親が疲れたような声でため息まじりに答えた。





どく、どく、と心臓が脈打つ音が、やけに大きく聞こえた。






「………なんでだよ」





『………癌だ。一年前に分かって、半年で死んだ』






久々に聞いた父親の声が、記憶のままの淡々とした口調で簡潔に告げた。






『そろそろ遺品を片付けるって話になって、母さんの衣装ダンスを整理してたら、奥のほうに紙が隠してあった。


お前の名前と、携帯電話の番号が書いてあった。


悩んだが………一応、知らせておこうと思ってな」






それからしばらく言葉を交わしたけど、何を話したか全く覚えていない。






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