先生、近づいても、いいですか。
『一度、墓参りに来てやってくれ』






父親は呟くように言って電話を切った。





俺は携帯を耳に当てたままの姿勢で、しばらく呆然としていた。







ーーー死んだ?




あの母さんが?




癌?




半年前に?






………嘘だろ?




まだ五十そこそこなのに………







「…………先生?」






真近で春川の声がして、俺ははっと顔を上げた。






「どうしたんですか?


大丈夫ですか?」






「あぁ、ごめん………大丈夫」






俺は携帯をポケットにしまった。





春川が俺の心を覗き込むように、上目遣いに見上げている。







「………父親からだった。


母親が、半年前に、死んだって………」






< 192 / 265 >

この作品をシェア

pagetop