先生、近づいても、いいですか。
それを見た瞬間、私は唐突に、思いました。






―――ああ、先生も、普通の人なんだ。




終わりのない仕事に疲れて、どこか力ない微笑みを浮かべている、世間の大人たちと同じように。




毎日毎日遅くまで働いて、なかなかとれない疲れが泥のように身体の奥底に沈殿している。




でも、そんなことは少しもおもてには出さずに、笑顔で生徒と接しているんだ。






そう、先生は、「先生の仮面」の奥に、普通の25歳の男の人の顔を、隠しもっているんだ。








………私は、そんなことを考えながら、さっきよりも少し大きな声で、「先生」と言いました。





先生は「ん?」と言い、ぱっと振り返ります。





その顔には、もう、疲れなんか少しも滲んでいなくて。




いつも通りの、生徒に向ける明るい笑顔が浮かんでいました。






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