夫婦ですが何か?
負けず嫌いの彼女はその反応が鏡のように感じる時もしばしば。
こちらが柔和な態度であればクールだけども平常で、こうして不満を映せば彼女も同じように突っぱねて。
段々理解して順応する彼女の取り扱いに、今程の不愉快な感情なんて一瞬で忘れて口の端が上がる。
本当に意地っ張り。
小さく響く雷にでさえビクッとしている後姿をクスリと笑い、靴を脱ぐと歩幅大きく歩み出て、
「・・っ・・・」
「今来たばっかの彼氏に帰れなんて言っちゃうの?」
後ろから首に巻きつけた腕を引き、彼女の背中が俺の胸に当たった感触を得て肩に顎を乗せてみる。
頬に彼女の髪が触れて自分の為に伸ばされたそれに小さく胸が締め付けられた。
「帰らないよ。・・・・こんなに弱弱な千麻ちゃん放って帰れるはずないじゃん」
「・・・弱弱しくなんか・・」
「言ってる傍から微かに聞こえる雷にもビビってるじゃん。聴覚も犬並だよね」
「噛みつきますよ?」
「大歓迎だよハニー」
ムッとして顔だけ振り返って食ってかかった彼女に、『さぁ、どうぞ』とばかりに頭を傾げて首を差し出す。
さすがに本気でするつもりはなかったらしい彼女の呆れた視線と『M・・・』の一言。
「別に俺Mじゃないんだけどなぁ・・・」
「どう考えてもMでしょう。私がいくら罵ろうが邪険にしようが恍惚としているくせに」
「あっ、それ千麻ちゃんだからだよ~?感情あらわにしない千麻ちゃんのそれを伺うのは、その言葉の嫌味や表情だけですから」
「・・・失礼な」
「だって本当じゃない。でも・・・・さっきみたいな意地悪はちょっと小さく傷ついちゃうよ」
「えっ?」
「・・・だって、・・千麻ちゃんが泣いてるかと思って車飛ばして必死に走ってきた俺に対して、【元彼】頼るとか言わないでよ」
困ったように眉尻下げて、問題点の指摘を口にすれば、
あっ、ポーカーフェイスが崩れた。
さすがに彼女も罪悪感感じるそれだったのか気まずそうに一瞬眉尻下げて瞳を揺らす。
でもすぐにフイっと視線を外して前を向くと。
「・・・・すみません」
つっけんどんに口にされた謝罪。
それでもちゃんと伝わっているんだ。
これは彼女のちょっとした意地と照れ隠しで、本当の感情は一瞬の下がった眉尻が一番物語っている。
だからこそ不満に思う事なく口の端を上げると、彼女の首筋にチュッと唇を当てて愛情表現。