夫婦ですが何か?
そこまで思考が走って、馬鹿らしいと口の端を上げた。
考えたって・・・仕方ないのよ。
そうどこか言い聞かせソワソワと落ち着かない胸の内を宥めて寝室の扉をくぐった。
「っーーーーー!?」
バッと見開いた目に見慣れた天井が暗闇の中ぼんやりと映る。
数回瞬きし、コンタクトをつけたままだったと痛みで理解してその身を起こした。
でもすぐに膝を抱えるように蹲って、暴れる心臓と記憶鮮明な脳裏の不安に手が震える。
そして確かめるようにベッドから飛び起きてベビーベッドに駆け寄るとあどけない寝姿の翠姫を捉えて脱力した。
夢・・・だった・・・。
その場に蹲って今程リアルにその身に闇を落とした映像が夢だったと安堵した。
そしてまんまと自分が馬鹿らしいと思う思考に大きく不安を感じているのだと気がつき、情けないと両手で顔を覆った。
夢の中で、翠姫を抱えてあやしていた。
でも、フッとその存在が消えて部屋を歩き回って探している途中、姿見に映った自分が今の私でなくあの当時の秘書であった自分で。
困惑している時に小さな子供の声が響く。
翠姫の声かと思って、声のした部屋の扉を開けるとそこには予想されたもう一つの時間があって。
今の彼である姿の隣には今の芹さんが隣り合って笑っているのだ。
そして2人に愛でられ慈しまれている小さな子供の姿。
あの時・・・・もう一つの選択を選んだらこうなっていただろうという未来予想図。
その世界には・・・翠姫は存在せず、私も彼には愛されていないのだと思ったら絶望した。
そうして目が覚めて今こうしている。
夢だと分かってもなかなか落ち着かない心臓が、本当にその夢に畏怖していたのだと示してきて。
情けなくも涙が浮かびそうなのをコンタクトのせいだと誤魔化して息を吐いた。
しばらくそうしてその身を落ち着け、不意に寝室に不在の彼に意識が走ると時間を確認する。
すでに深夜の1時過ぎ。
あれから芹さんの愚痴を聞いていたにしても長すぎないかとゆっくり立ち上がり寝室を抜ける。
ベッドには日華が眠っているし帰ったという事はないだろう。
だとしたら2人でまだ何か語らっているのだろうかと、疑問で捉えたリビングの扉の向こうは明かりが消えている。
一瞬あらぬ予想に心臓が跳ねたけれど、まさかそんな事態はあり得ないとすぐに言い聞かせ。
音を立てないようにリビングに入ると2人の姿は捉えられない。