夫婦ですが何か?





分かり切っていたけれど響いた彼の声に落胆する。


どんなに私に愛の言葉を囁こうと、愛情示して肌を合わせようと、夫婦として時間を築き上げても。


たった一言。


彼女のその一言できっと私の存在など、位置など入れ替えられてしまうものだと。


分かっていたのに・・・。


どうしよう・・・。


困るほど・・・ショック。


今も・・・好きだったの・・ですね。


なんだろう。


正式な妻である筈なのに・・・惨めな気分は。


響いた彼の声に打ちのめされ、今まで自信を持って感じていた彼の愛情を見失った。


まるで正夢の様だと思っておかしくもないのに口の端を上げて、こんな感情でこれからも上手くやれるのかと本気で懸念して目が潤みそうになった。


そんな瞬間。



『でも・・・・選ぶ道は同じだよ』


『・・・・今と一緒ですか?』


『迷う事なく・・・・今』



思わず声の方へ振り向いて、でもその姿を捉えられるはずもなく視線をゆっくり前に戻した。


それでも聞き入れた言葉に酷く困惑して、私の聞き間違いではないのかと真剣に考え込んでしまう。


そんな思考に否定を返すように響く彼の意思。



『俺は・・・今にならない道は取らないし、【例えば】芹ちゃんが俺に本気の告白をしても、嬉しいかもしれないけど・・・・心は動かない』


『・・・・泣いて、・・・縋って誘惑してもですか?』


『それは少しされてみたいね』


『茜さん』


『フフッ、冗談はさておき・・・・、本気で・・・動かない』


『千麻さんに操を立ててですか?』


『操とは違う。・・・・千麻ちゃんを失うのが一番怖いから。千麻ちゃんと夫婦してる時間が今まで過ごした時間の中で一番幸せだからさ・・・』


『・・・一番ですか?私と過ごした時間よりも?』


『・・・・俺、芹ちゃんの事本気で、・・ふられて壊れそうになるくらい好きだったよ。その事実は誤魔化せない。今も・・・思い出すと切ないけどさ・・・・』


『・・・すみません』


『もう・・・昔の話でしょ?それに・・・それ以上に本気で壊れた瞬間があるから』


『・・・・そうですね』



少し・・・落ちた彼女の声。


同調したそれはその瞬間の彼を思い出してなのだろうか。


そしてそれは・・・私が知り得ぬ時間の彼なのだろう。


きっと・・・あの時間なのよね?


なんとなく察するそれにきつく目蓋を閉じてからゆっくりと開いて息を吐く。


そうして心落ちつけた耳に入りこんだのは彼の謝罪。



『・・・・・ごめんね芹ちゃん。俺はね・・・芹ちゃんの事はきっと一生大切で、大事な女の子だと思うんだ。
でも・・・、

もう、キスしたいとか、抱きしめたいとか・・・そういう感情は一切ない』


『フフッ、私が今押し倒しても?』


『多分、押し倒された瞬間に千麻ちゃんにそうしたくなって寝室走っちゃう』



ああ、本当に・・・、


本当に馬鹿で失礼な事を・・・。

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