夫婦ですが何か?





呆れてしまう宣言に眉根を寄せたのに口の端は上がる。


私も大概安い女であると感じて、馬鹿正直に騒ぐ胸の内に小さく息を吐いて宥めていく。



『わぁ・・・過去の彼氏に女扱いされなくなっちゃった』


『ごめんね。でも・・・・芹ちゃんもそうでしょ?今更俺が迫ってもドキドキしたりしないでしょ?』


『・・・・すみません。・・・全くです。私の目はすっかり壊れてしまっていて雛華さんにしかいい男センサーが反応しないのですよ』



言いながらその目を示す彼女の彼が吹き出しクスクスと笑う。


思わず自分も笑ってしまいそうなのを堪えると、ゆっくりと立ち上がってその場を去ろうと足を踏み出す。



『俺はね、もう芹ちゃんに触ってもドキドキしないんだ。だから意識せずにどこでも簡単に触れちゃう』


『・・・・千麻さんにも触ってますよね?』


『触ってるねぇ。でも・・・平気に見せて・・・本当は結構緊張する。・・・また拒まれたらどうしようって・・・。泣いて拒絶されたら・・・・どうしようって・・・』



思わず足を止めた会話。


響いた彼の声は明るく努めているのに悲哀交じりで、少し苦痛も見え隠れする。


そうですね・・・・。


泣いて拒んで・・・全力で・・・拒絶しましたから。


それを・・・必死で2人で克服して今となったのですよね。


でも・・・今も不安になっていたなんて知らなかったわよ?


ダーリン。



『緊張して触れるからこそ・・・・触れられた直後に死ぬほど愛おしくなって強くキツク抱きしめちゃうんだ。

皮肉を返されても本心で拒まない彼女が・・・心底愛おしい』


『・・・・・愛されてますね。・・・千麻さん』


『・・・・・だから、千麻ちゃんがいない現在(いま)なんていらない。

・・・何回あの辛い時間繰り返しても現在(いま)に繋がるならそっちを選ぶよ』


『・・・・・・お互いに・・・最高に幸せな現在(いま)を築きましたよね』


『だから・・・あの時の選択は大正解。

【運命】だったんだよ』



馬鹿ね・・・・。


運命論なんて微塵も信じていなかった男だった癖に。


勝者の酔った価値観だとぼやいていたくせに。


本当に・・・自分に都合のいい男なんだから。


でも・・・その都合の良さで歓喜する女がここに一人はいるのだから・・・・良しとしましょう。


今宵・・・私は何も聞いていません。


あなたに寝室に追いやられ、不満に染まりながら就寝した妻で目覚めましょうとも。


静かに口の端を上げると足音静かに床を踏みしめる。


自分の痕跡も残さず、その場に存在していなかったように寝室に戻るとどこか今までずっと胸に残っていた棘が抜けたようにすっきりとして。


もう・・・もう一つの未来予想図は頭に浮かばない。


単純なんだろうか?


そう思いつつも正直に口の端を上げてベッドに身を沈めた。






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