ひまわりの約束



「…お前。」


あたしはその声に左を向いた。


「…!?…日向。」


「…来てたんか。ここ。」


「…うん。」


日向はあたしの隣に
少しだけ距離を置いて座ると
静かに喋り出した。



「わり。連絡できんくて。」



「…なんで連絡してくれんかったと?」




「…携帯。
壊れたけんショップから
代機借りたけど。
何もアプリ入らんから使えんかった…」



「…」



「…ほんとごめん。」




「…仕方なかやん。それは」



「ありがとう。



…でも、それでもあの日



俺は会えると思ってた。」




「…えっ?」


あたしはその言葉に
反応して日向な顔を見た。





「伝わってると思ってた。

思い出の場所は同じだと思ってた。」



思い出の…場所。


もしかして…あの日…




「あたしだって!…ここはっ!」




「んじゃあ、なんで来なかったんだよ!!」




「えっ?」



鋭い目つきであたしを見る日向に
少し驚いてしまった。


…怖い



学校で見せる顔よりもキツイ。

冷静な怒りの表情に見えたんだ。




「あの日、荒木屋居たんだろ?

…荒木屋のおばちゃんから聞いたわ。」





「…それは」






「…俺たちはもう。


あの頃とは違ぇんだよ。」




「…日向。」



…あの頃とは違うことなんて


わかってる


日向だって変わっちゃったやん。


あたしだって変わったよ…


だけど…





「…俺たちはもう他人だ。

お前に話すことねぇから。」




「…ちょっ。日向!」



日向はスッと立ち上がると
出口に向かって歩いていく。





…日向は

どんな気持ちで
誘ってくれたん?


あたしはその気持ちを
多分踏みにじっちゃったんだ。





「…ごめんね?…日向。」





「…煌月と。お幸せに。…そして。


あの約束。守ってやれなくて


ごめんな。」



振り返りながら
静かにつぶやいた日向は

そのままひまわり畑を後にした。






…あの約束



『///絶対守ってやるけんな?

絶対に幸せにするから。』



蘇った思い出


日向とあの日
交わした約束。



…覚えててくれたんだ


それだけでちょっと嬉しかった。


けどそれと同時に思い出したこと。



あの日の次の日



あたしは雨の中

いつも遊ぶ
荒木屋で日向を待ってた。


けど
何時になっても来なくて…


夏祭りみたいに
あたしは必死に待ち続けた。


雨足も酷くなって…


パパが心配して
迎えきてくれたんやったっけ…



『日向…っこん…っかった。』


車の中で泣いて泣いて…

パパは静かにうなづいてくれてたっけ…




今回と同じ

悲しくてさみしくて…


辛かった。



あの日、日向は…



…ってもう過去の話か。


日向にとってもそうなんだと思う。


「…あたしはやっぱり立ち止ったまま…

過去にしがみついてるだけ…」




「あーちゃん?」


「えっ?」


そこには
ウィンドブレーカー姿の来夢


来夢は
自転車止めて
こっちに歩いてきた。


「あーちゃん。どうかしたん?」



「…っ来夢ー。」


あたしは
涙混じりの声で

来夢に抱きついた。



「…っちょ。あーちゃん?」


来夢は戸惑ったような声で
あたしを抱きしめ返してくれた。



「…日向と。何かあったん?」


そう優しくつぶやいて。





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