スケッチブックに描くもの
「ゼロ、ゼロ人だよ。親父のスパルタのせいでそれどころじゃなかったし」
「嘘!」

 あ、また追求して……

「本当だよ。そんな風に見える?」
「見える。見えるよ。初日の告白だって!!」
「んー。そうなの?」

 ああ、天然でやってたのね。そういえばさっきもズボンまで私の前で脱ごうとするし。
 ただの、天然に振り回されてたのね。

「涼のばか」
「バカってなんだよ! 嫌なの?」

 さっと目の前に涼の顔があらわれる。うう、近い。

「い、嫌じゃない」
「そう」

 って、笑顔になる。可愛い……
 フッと唇が重なる。はじめての感覚。う、キスって想像より気持ちいいかも。

「はじめてだった?」
「うん」

 あ、素直に言っちゃった。

「ふーん。五人の男はなんもなしと」

 涼ニヤついてる。

「もう、そこは話題にしないで。一人いるし学校に」
「え!? マジで誰?」
「言いません。だから、言わないでもう」
「わかった。いや、アリスがあんまりにもだったから、聞いたけど意外な答えでビビったよ」

 うるさい話題が変わってないし! ってかあんまりにもって何があんまりなのよ。

「涼も意外だったけどね!」

 嬉しかったんだけどね。涼のお父さんのスパルタに感謝。


 あ、時間!

「今! 何時?」

 窓の外が暗くなってきてる。
 返事も聞かず、私は立ち上がり荷物を手にする。

「ああ、もう帰るね」
「じゃあ、送るから、ちょっと待って」

 とすぐに涼はユニフォームを脱ぐ。え、あ、近い、近いよ。
 すぐにTシャツに着替える。


 私を送る涼はなんか嬉しそう。ユニフォーム? 私の恋愛話? いったいどちらで上機嫌なんだろ?


 いつもより遅い帰宅に莉子といたと言い張って母の詮索を逃れる。前に彼氏、ん?? あ、3日続いた彼といるとこ見られてうるさかったのを覚えてる。しかも次の日には別れてたから余計にうるさく感じた。もう彼ではないと言い続ける虚しさ。自分って人を好きになれないんだと、半ば落ち込んでたから余計にね。告白されて、まあ、いけるかと思っても全滅だった。高校生になってもう告白は受けないと決めてたら、まさかの相手からのまさかな告白だった。


 そっか、あれは天然かあ、あ! 私今日、初キスだった。なんで、あんなに軽いんだ。緊張感ゼロだし。あ、天然。
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