スケッチブックに描くもの
 試合は二試合目に入っていた。緊迫した試合を後ろで見ていたら、先輩達が涼と私も前へと呼ぶ。あ、そうか、スケッチだ。
 交代の隙間をぬって二人で前へと行く。すごいやっぱり試合だ。私は描いて行く。と、ふと頭に帽子が乗せられた。
 あ、そういえば、朝急いでいたから帽子忘れて来てたんだ。みると佐々木部長がかぶせてくれたみたいだ。軽く会釈でお礼がわり。声は出せそうにない。
 部長は試合に集中してる。佐々木部長も帽子はかぶってるから、予備の帽子なんだろうな、これ。


 白熱した試合だったけどそこまでの接戦とはならずに勝てた。
 私はいいものが描けそうで、ワクワクしていたが隣の涼は無言だった。無言でコートを睨みつける。


 次の帝流学園との試合はお昼後からだった。私は涼とさっきいた木陰にいった。気持ちいい風が通る絶好の場所だったから。

「いただきます」
「……」
「涼! もう拗ねない」
「だって出番なしって。せっかくユニフォーム着てるのに」

 わからないでもない。

「聞いてきたんだけどね。噂好きな友達にね。親善試合だけど相手がどんなだか興味あって」
「たいしたことなかったじゃないか。さっきの試合」

 涼にとってはたいしたことない相手になるんだな。先輩達が楽勝とまではいかなかったのに。

「さっきの学校じゃない、次が本番なのよ。そのためにうちはここに来てるって」
「え!?」
「次の総体に向けて相手を知るために今日の試合があるって。地区大会の一番の強敵はこれからやる帝流なんだって」
「でも、なんで? なんで。総当たりで部長と同じく無敗の俺が控えって」
「部長を控えにする訳にはいかないからじゃない? それで、涼を控えにするのは、持ち札を隠しているんじゃない?」
「隠している…か」

 言葉を噛みしめるように涼はいった。

「そう、勝敗が関係ない親善試合だからできる事。次からは全力でやらないといけないからね。あくまでも帝流学園を意識してのことじゃない? 今日でなくて、本番に涼を出せるって」
「それ、アリスの分析だろ?」
「なによ。いいでしょ。ほら機嫌直して食べよう。ここ気持ちいい」
「そうだな。もう、いいや。一年でこれ着てるだけで」
「なに、その開き直りは」

 良かった。機嫌が直って。誰でも納得出来ないだろう掴み取った地位につけなかったんだから。
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