スケッチブックに描くもの
 泣くだけ泣いて、また涙が枯れる。いったいこれをいつまでも繰り返すんだろう。


 インターフォンが鳴り母が出る。なんか喋ってる。担任とかだと嫌だなあ。来客は帰ったようで、母が上に上がってくる。

 コンコン

 あれ? いつもは返事も聞かずに入って来るのに。

「はーい」

 ドアが開く。そこには佐々木先輩がいた。
 嘘なんで。ていうか、私酷い格好だし。あれ?

「なんで佐々木部長が?」
「俺お前の部長じゃないし。もう引退したし」

 ああ、そうなんだ。もう辞めたんだね。って、そこじゃない!

「なんでうちに来るの?」
「ああ、始業式に送ってった手前?」
「え!?」
「お前覚えてないのかよ。鏡野!」

 佐々木先輩は私の前に座り私の頭をクシャっとする。そういえば……歩くのもフラフラして莉子につかまるようにしてて、あ、そうだ後ろから来たんだ。先輩が。ずっと私を抱きかかえるようにして支えて莉子と私の家まで帰ってくれたんだ。そう、この部屋に私を佐々木先輩が入れてくれたんだ。

「思い出しました。あ、ありがとうございました」

 頭を下げた。ああ、なんか恥ずかしい。顔上げづらいなあ。

「たくっ!」

 急にガバッと佐々木先輩の胸が目の前に来た。え!?

「お前痩せすぎ。食べてるのか?」

 首を振る。

「アイス買って来た。食え」

 さっと私から離れて佐々木先輩が持ってきた袋をガサガサ探る。

「どっち?」

 指を差しチョコを選ぶ。あ、チョコ、エクレア……ダメ!涙がまた溢れる。

「おい。アイスで泣くなよ」

「はい」

 何とか涙を押し込みアイスを食べる。あんなに食べれなかったのに。なぜか、全部食べれた。
 佐々木先輩はホッとした顔してる。知ってたのかな。だからアイスにしたのかも。食べれなかった私でも食べれるように。
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