スケッチブックに描くもの
 ガバッと私は先輩にしがみついた。涼が書いていた。佐々木先輩について。涼は先輩の気持ち知ってたんだね。

「うわ。おい。どうした」
「確かめてるの。大丈夫か」
「何を?」

 先輩は手をどうしていいのか困ってる。取り敢えず私の背中をさすることにしたようだ。

「中学の時にダメだったの。手をつないだり腕を組んだり肩を触られたりするのが」
「でも、お前らって」
「涼がはじめてだったの。大丈夫なの」

 先輩は手を止めて考えこんでいる。

「あのさあ、俺何度かお前に触ってるけど」

 先輩の胸にあった頭をハッとあげる。

「本当だ。気づかなかった」
「鏡野。お前なあ。ってなんでもう一度確認するんだよ」

 私はもう一度先輩の胸に頭を置く。

「安心するの。こうしてるとなんか」
「あーもー。好きにしろ!」

 私達はそのままの姿勢で話を続けた。たわいもない話だった。テニス部の新部長が駿河さんだとか、テニスの話題にも耐えれる、ううん。平気になってる自分がいる。


「ねえ。お母さんよく入れたね」
「え!? ってか出かけたぞ。アリスお願いしますって」

 何? 母そんなんでいいの? 佐々木先輩の出すオーラ?

「えー」
「でも、出かけられなかったじゃないか、お前が心配で。一週間も家にいたらな」

 一週間も経ってたんだ。

「そんなに経ったんだ」
「ああ、だから、明日は来いよ」
「う…ん」
「迎えに来てやるから! な!」

 と言って置いてた私の頭をあげる。

「うん。わかった」
「あ、うん」

 目と目があって佐々木先輩が目をそらす。佐々木先輩、案外硬派なのかな?

「ねえ、前の彼女と別れたの私? 私が原因?」

 アイス食べてエネルギー補充したからか元気になってきた。

「ああ、もう。そうだよ。噂の通り」
「じゃあ、絵を描き終わったのに私にテニスコートにいるようにいったのも?」
「ああ! そうです。お前がいなくなるのが嫌だったからだよ。だから、明日から来いよ」
「うん。わかった」

 ガシッとまたしがみつく。こうしていると落ち着く。何でだろう。


 母が帰ってきたので佐々木先輩は帰って行った。その日私はご飯を食べた。お粥だけどね。
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