スケッチブックに描くもの
※※※


「桃李! ご飯!」

 私は三年生の教室を覗いていう。桃李がお弁当片手にこちらへ来る。

「大きな声で言うなよ」

 佐々木桃李はかなりの恥ずかしがり屋だった。

「もう寒いからなあ。どこ行く?」
「昨日の場所でいいだろ」
「あそこ行くなら早いもの勝ちだよ」

 そこはちょうどガラス張りになっていて冬場でも心地いい場所で、皆も狙ってる。

 少し早足でそこに向かう。途中涼とお弁当を広げたベンチの横を通る。涼の事を忘れた訳ではない。こうやって何度も思い出の場所に来る度に思い出す。だけど、涼が私よりテニスを取ったように、私も別の未来を取ったんだ。涼と一緒にいる未来ではなく。

「空いてた! 桃李、空いてた。ラッキー」

 ベンチにさっさと座る。他の誰かにベンチを取られないように。

「アリス。今日はやたらに上機嫌だな」
「絵ができたんだ。今日見に来てくれる?」
「ん?ああ、いいよ」

 桃李もう食べてるし。

「いただきまーす」
「そういや。あの時もここに来たな。アリス、パン買うの時間かかってココしか空いてなくて。あの時は暑かったなあ。ここ」

 あー。そうだった桃李とはじめて学校に行った日。ご飯がまだ食べれないからパンを買いたかったけど、なかなか買えなくて結局桃李に買っもらって、さまよい歩きここに来た。まだまだ暑い日差しがガラスから突き刺さってきて暑かった。だけど、楽しかった。桃李との初お昼ご飯だった。
 私と桃李の噂は学校中を駆け巡っていたようだけど、莉子がいろいろしてくれたようだった。
 刺すような視線はいつしかなくなった。

「暑かったねえ。でも、今日は心地いいね」
「ああ。なあ。絵って何描いてるんだ?」
「だから、内緒だってば」
「いいだろ、今日見るんだし」
「ダメ。見てからのお楽しみ」
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