生きることの意味【完結・加筆完了】
それに驚いて思わず顔を上げてしまい、早々に顔を上げた事を後悔した。
目の前で緋人と視線がかち合う。
その緋人の顔は、無表情。それが一番ぴったりだと思った。
感情も何もない虚ろな瞳があたしを視界に捉えている。
それだけで、体が微かに震えて呼吸する事すらうまく出来ない。
「アドレスとかは消しておいて。そうしたら俺も直に忘れられる筈だから」
無表情のその顔で、口だけが動き言葉を紡ぐ。
肩から手を離すと、緋人は踵を返しホームに到着した電車に乗り込んで行く。
一度もあたしの方を振り返らずに。
涙なんて出なかった。
ただ、掴まれていた肩が痛くて、その部分を震える手で押さえる。
怖かった。
緋人が。
怖かった。
知らない人みたいで、怖かった。