不純な理由で近づきました。




「メガネ、返して下さい」



凛とした声がわたしの耳に届く。


すぐ近くで聞こえた声に、心が震えた。



「でもこれダテよ?」


「それでも、です」



有無を言わさない声だけど、まだメガネは返ってこない。


視界が塞がれているから、どうなっているのかも分からないんだけど……


どうしよう、と思っているところに、新しい足音が階段を上ってきた。



「ちょっとイリア、サユもいきなり何して……って、本当に何してるの」



あ、この声はカインくんだ。


まぁ疑問に思うのも当たり前の状況だよね、これ。



「そうだよ。ぼくに全ての荷物を預けてさっさとお兄ちゃんのガールフレンドを見に行っちゃうなんて、非常識にもほどがあるよ」



聞いたことのない声。


透き通った高い綺麗な声は水晶みたい。


はぁ……だんだん落ち着いてきたかも。



「恭くん……もう大丈夫」



やんわりと手を外そうとするけど、視界はまだ暗いまま。



あれ、聞こえなかったのかな。


もう一度言おうと口を開く前に、耳にくすぐったい息使いを感じて。



「六花、無理はするな」



直後、セクシーなバリトンボイスがわたしの耳に直接流れ込んできた。



ひゃあぁ……心臓がすごいことになってる。


視覚を奪われているからか、その分妙に耳に神経がいっているように感じる。


とにかく、これは心臓に悪い。






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