不純な理由で近づきました。
あぁ……こんなことになるのなら、カインくんにちゃんと理由を聞いておけばよかった、なんて思っても後の祭り。
「あ、あの……怒ってます?」
おずおずと恭くんを見上げて聞いてみる。
ついで無意識のうちに首を傾げると、弾みで髪がほつれて1束うなじにかかった。
下ろしているのも暑いかと思い、旅館に備えつきのバレッタを借りたが、やっぱり全部まとめるのは無理だったらしい。
……1束だけほつれているのもヘンか。
仕方なしにわたしはバレッタに手を伸ばして髪を下ろした。
ふわりと感じる、いつもとは違う香り。
さすが有名どころというか、髪のサラサラ具合もいつもよりいい気がする。
恐るべし、老舗旅館。
「っ……」
「…?」
小さく息を呑む恭くんを見上げる。
「恭くん?」
「…それ、わざとなわけ?」
「は?」
わざと?何が?
わたし、何かした?
キョトン、とするわたしに恭くんはため息をこぼし、その手をわたしの方に伸ばした。
何っ?と慌てるわたしの頭を恭くんは撫でて。
そしてわたしの髪を1束掬い、遊ぶように指に絡める。