不純な理由で近づきました。
な、なんか、恭くん今の状況を楽しんでいるように見える。
心なしか口も緩んでるし……
声も、ご機嫌そうだし。
さっきまでの不機嫌はどこに置いてきたんだ。
「髪、サラサラ」
「ひぅ……っ」
髪がすかれるサラリとした感覚といっしょに、ちょん、と指先がわたしの耳に触れて。
熱い……顔が、熱い。
「〜〜きょっ、恭くん、なんかキャラ違うっ」
例えるなら、甘い。
態度も声も、普段とは比較にならないぐらいには甘い。
甘すぎて頭がクラクラする。
なんで……どうして、こんなにわたしの心臓早いの?
「きゃっ……」
スッとメガネが取られて、視界がクリアになる。
メガネのレンズの隔てない世界で1番に見たのは、ほんのりとした明かりに照らされた、妖艶な表情をした恭くんの姿。
まるで酔ったみたいに、脳の奥がグラリと揺れる。
反射的に下がりそうになる顔を、恭くんは顎を固定することで阻止した。
「前に言っただろ、『遠慮しない』って。
だから、この夏はもっと積極的に攻めてみようかと」
「は?せ、せめ……?」