不純な理由で近づきました。
「六花たちの部屋ってここだよな?」
「あ、はい」
考え込んでいたうちに、いつの間にか部屋に着いていたらしい。
考えごとって、一度集中し始めると時間が早く過ぎる気がする。
時間の感覚がおかしくなるんだよね。
「あ、送ってくれてありがとうございました」
「別に。俺がしたいと思っただけだから」
恭くんの優しさを感じる台詞につい笑顔がこぼれた。
………でも、そろそろ離してくれないかな。
わたしの右手はまだ恭くんと繋がったままで。
いつまでしているんだろうと考えていると、不意に繋がれていた右手が引き上げられて。
キョトン、としてわたしは恭くんを見つめる。
その前で、手の甲にちゅ、と恭くんの唇が落とされた。
「………」
「おやすみ、六花」
何も言えないわたしに、恭くんは少し意地悪な笑みを浮かべる。
恭くんの背中が廊下の角に消えていくまで、わたしは情けないことに動くことができなかった。