不純な理由で近づきました。




固定された視界の中、ゆっくりと恭くんの手が近づく。


そぉっと割れ物に触れるかのようにわたしの頬を包む優しい手のひらに、ビクッと体が反応した。



「うっ、あ、あのっ」



ちちちちちかいっ!!


さっきより近いんですがっ。


恭くんの吐息が肌にかかるのですがぁっ。



どんどんと近づいてくる綺麗な顔を直視できず、思わずギュッと目を閉じる。


ムリだ。


あれ以上見ていたらヘンなことを口走ってしまいそう。


ムリ!!



うわーと内心で遠慮なく叫んでいると、ぽふ、と肩に重みを感じて。


頬にはサラサラとくすぐったい感じが。



(へ?)



そっと瞼を上げると、恭くんのアッシュブラウンの髪が目に入った。



「え、えと……?」



どうなっているの?


ポカーンとしていると、六花、と呼ばれて。



「ごめん、あと少しこのままで」


「へっ」



ちょ、ちょっと困ります恭くんら。


さっきから心臓が普段の5割増で活動していて痛いのに。


この状態でも結構バクバクしているのですが。







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