不純な理由で近づきました。
「六花、明日暇?」
「明日?うん、特に用事はない、かな」
「じゃあ明日一緒に出かけようか」
どう?と聞いてくる恭くんにわたしは電話を耳に当てたままカチンと固まった。
明日、一緒に、出かけよう…わたしと恭くんが、いっしょに……?
フリーズしていたわたしの耳に「六花?」と恭くんの訝しげな声が聞こえてハッとする。
「い、行く、恭くんとお出かけしたいっ」
見えていないとわかっていながらもコクコクと頷くと電話の向こうからクスリと小さく笑ったような音がして。
どうしよう…前から恭くんの声はわたしの好みど真ん中だったけど前よりも今の方がずっと素敵に聞こえる。これもわたしが恭くんに恋してるから?
「じゃあ明日。昼の1時でいいか?」
「うん、1時ね、わかりました」
場所は駅前で、と言うと恭くんは電話を切り、わたしもケータイを膝の上に置いた。
お出かけ…恭くんと一緒にお出かけ、かぁ。
ふふ、と1人に笑みを漏らして顔を上げると不意に鏡の中の自分と目があった。
そっと自分の長い前髪に触れてみる。ずっと視界を狭めて、世界を隠していた前髪。
「……」
よし、と決意が鈍らないうちに立ち上がり下におりていく。