不純な理由で近づきました。
そろそろと視線を上げてナルちゃんを見習い首を傾げてみる。
こんな風におねだりしたのは久しぶりかもしれないと思っていると兄さんがふらりとよろめいた。派手な音を立ててテーブルに手をついたものだから慌てる。
「に、兄さんっ?」
え、この短い時間の中で兄さんがこんなになることってあったっけ…?
えっ、え、と慌てているとゆらりと兄さんが立ち上がり伏せていた顔を上げた。
「…六花」
「え、な、何?」
じ、と兄さんを見つめると兄さんはグッと親指を立てて満面の笑みを浮かべた。
「任せとけ!兄さんがとっておきのアップルパイを買ってきてやるからな!」
「あ、うん。ありがとう…」
「んじゃちょっと待ってろよ」
数秒で支度を済ませて車のキーをつかんだ兄さんは部屋を出る前にドヤ顔をかましてあっという間に出て行ってしまった。
その後ろ姿にナルちゃんは「急がなくてもいいからねー」とのんびり声をかけていたが兄さんに聞こえたかどうかは定かではない。
兄さんが出て行って静かになった部屋の中にクスクスと軽やかで甘い笑いが落ちる。
「ふふ、トモってば単純だよねぇ、りっちゃんのことになると」
「かもね」