不純な理由で近づきました。
「じゃあ帰るか」
「うん…じゃなくてはい」
また無意識のうちに敬語が抜けてしまって慌てて言い直すと不思議そうに首を傾げる恭くん。
「言い直さなくていいのに」
「え、でも…」
恭くん、タメ口はいやだったんじゃないの?
迷うように視線を彷徨わせるとクスリと意地悪そうに笑う。
「敬語抜けてきたってことは無意識に心開いてるってことだろ?わざわざ遠ざかるようなことするなよ」
つん、とおでこを軽く押されて覗き込むように見つめられればじわじわと頬が熱くなる。ドキドキして声が出せずにコクコクと頷けば恭くんは楽しげにクスクスと笑っていた。か、からかわれたような気がする…
荷物があるので手が繋げずに少し先を歩く恭くんの背中を追う。
仕方ないといえば仕方ないし、自業自得といえばそうなんだけど、手が繋げないのってちょっと寂しい。そして繋いだら繋いだで恥ずかしいからホッとしてるのも確かなんだけど。
チラリと恭くんを見上げるといつもとあまり変わらない表情をしていてなんとなく面白くなかった。
わたしだけこんなにドキドキしてそわそわして、ちょっとのことで嬉しくなったり不安になったり、喜んだり悲しんだり。理不尽だと理解しているものの悔しい。
少しぐらいわたしだけじゃなくて恭くんもドキドキしたり、は無理だと思うから驚かせてやりたい。このくらいなら神様だって怒ったりしないだろう。