不純な理由で近づきました。
あぁ、やっぱりそういう声もいいなぁ。
聞いてて全然飽きない。
ずっと聞いていたい声。
こんな声で呼ばれたら今生に悔いないかも。
………あれ、そういえば。
「恭くんって、わたしのことを呼んだことないですよね」
思い返してみると全部、お前とかだったような……
恭くんもしまった、というような顔をしていて。
いつも学校では不機嫌そうな顔や無表情が多いせいか、その顔がかわいく見える。
いろいろな表情を見せてくれるってことは、少しは心を開いてくれたってことかな。
嬉しくて、思わずふふっと笑みをこぼしてしまう。
「わたし、今までこういう風に人と関わったことなくて。
だから慣れないです。でも……」
隣を見ると少しだけ驚いたような表情で恭くんはわたしを見ている。
その目を見つめて、わたしはおかしくない程度に微笑みを浮かべた。
「嬉しいです。友達って、なんだかくすぐったいですね」
話しているうちに別れ道にきていた。
「恭くんはどっちですか?」
「あ、あぁ、右」
「わたしは左なんです。じゃあここで」
さようなら、とわたしは恭くんに軽く頭を下げて左に進んだ。
「……白崎、」
……え。
バッと振り向くと恭くんが立っていて。
今、わたしのこと……
「さすがにカインみたいに名前は無理だけど」
照れたように恭くんは笑う。
でも普通に異性の名前呼べるのは少ないと思いますよ。
「これからよろしくな、白崎。また明日」
「あ、はい。また明日……」
ヒラリと手を振って、恭くんはわたしの視界から消えた。