不純な理由で近づきました。
食器を片付けて学校へ行く準備をする。
と言っても前の日にほとんど終わってるけど。
インターフォンが鳴って出てみると、そこにはナルちゃんがいた。
見風 鳴海(みかぜ なるみ)
兄さんと同い年でわたしとも幼馴染み。
そして、今は兄さんの仕事仲間でもある。
「ナルちゃん、おはよう」
「ん、はよー。トモはー?」
「今来ると思うよ」
じゃあ待ってるー、というのんびりとした声はふわふわした綿菓子を思わせる。
髪の毛もキャラメルブラウンのふわふわした髪だし。
うん。朝からいい声聞けてよかったなぁ、とわたしまでふわふわした気分になった。
あ、ナルちゃんの言ってたトモっていうのは兄さんのこと。
本名は灯夏(ともか)と言う。
名前だけだと女の子に間違われるということで、みんなにはトモと呼ばせているとか。
綺麗な名前だと思うけど、兄さんにとってはコンプレックスらしい。
「おー悪い、ナル。待ったか?」
「りっちゃんといたしだいじょーぶ」
ぽすっと頭に軽い重みを感じる。
見上げるとナルちゃんがわたしを見て少し目を細めていた。
「りっちゃんのメガネ、久しぶりに見た」
「学校、だから」
「そっかぁー」
まるで慰めるように動く手の温かさに、わたしは思わず目を伏せた。
あぁ、兄さんの視線が痛い。
「……兄さん」
「なんも言うな」
「いや、」
「いいから」
「でも、」
「いいって」
「兄さん」
「………」
「遅刻するよ」
「………あ」
時計を見ると七時三十分を指している。
わたしは大丈夫。
でも兄さんたちは八時の十分前には仕事場にいなければならないはず。
ここから仕事場までは約三十分。